中小建設業のDXはSalesforceで変わる|セリタ建設の実践事例

2026年06月23日 建設DX

売上が3倍になった理由——私がSalesforceで会社を変えた10年間

はじめに

正直に言います。私は

正確には、「DXをやっています」と言うだけで満足している状態が嫌いなのです。システムを導入して、それで終わり。現場は相変わらず紙とExcelで動いている——そんな会社を、私はこれまで何社も見てきました。

私たちセリタ建設は、佐賀県武雄市で地盤改良を中核事業とする総合土木の専門会社です。1969年の創業以来、「創意工夫」と「責任の貫徹」を社訓に、軟弱地盤の多い佐賀の地質特性と向き合い続けてきました。社員数は約27名。決して大きな会社ではありません。

それでも、Salesforceを核にしたDX推進を10年以上続けてきた結果、売上高は10年前の約260%に達し、建設業界の平均経常利益率が約5%のところ、私たちは約20%を維持できるようになりました。2025年1月には経済産業省の「DX認定事業者」にも認定していただきました。

なぜ地方の中小建設会社がここまでできたのか。その全てをお話しします。

 

私たちの会社について

私たちセリタ建設の強みは、独自開発した「マッドミキサー工法」という地盤改良技術にあります。軟弱地盤が多い佐賀という土地の特性に着目し、自社で掘削装置を開発して特許を取得しました。ハウステンボスをはじめ、国内各地の現場でこの工法が活用されています。

技術に自信はありました。ただ、技術力だけでは限界があることも、経営者として早くから感じていました。良い仕事をしていても、それが正しく伝わらなければ次の仕事にはつながらない。情報が担当者の頭の中にしかなければ、その人が辞めた途端に全てがリセットされる。そういった課題を、何とかしなければという思いが、DX推進のそもそもの出発点でした。

 

実は一度、失敗しています

Salesforceとの出会いは、今から十数年前にさかのぼります。当時、私はあるCRMツールから乗り換える形でSalesforceを試しました。

率直に言うと、最初は「使いにくい」と感じました。

それまで使っていた国内のツールは「御社のお困りごとに合わせてカスタマイズします」というスタイルでした。自社のやり方に寄り添ってくれるわけです。ところがSalesforceは違う。こちらがツールの作法に合わせなければならない場面が多くあります。

当初の私はここで躓いて、しばらく使いこなせない時期が続きました。

転機は、ある問いを自分に立てたことです。「なぜこれが世界で売れているのか」。あれだけの企業が使っているということは、何か深い理由があるはずだ——そう考えて、もう一度Salesforceと向き合いました。

そこでたどり着いた答えが、私のDX観を根本から変えました。

 

「ツールに自分たちを合わせる」

自社のやり方をそのままシステムに移すのではなく、Salesforceが前提とするプロセス設計に業務の方を合わせていく。逆転の発想ですが、これが本質でした。既存の非効率な業務フローをそのままIT化しても、コストが増えるだけです。システムの仕組みに乗る過程で業務そのものを見直す——これがDXの真の意味だと、私はこのとき初めて理解しました。

 

4段階で進めた、私たちのDX

2012年頃、私は代表直下にDX推進室を設置しました。女性メンバーを中心としたチームです。コミュニケーション能力が高く、現場との橋渡し役として優れた仕事をしてくれました。

私たちが実践したDXの展開は、大きく4つの段階に分かれます。

 

第1段階:まず「断捨離」から始めた

システムを入れる前に、私たちがやったのは徹底的な業務の棚卸しです。部門をまたぐワークフローを一つひとつ書き出し、どの業務がどの帳票・情報と紐づいているかを可視化しました。「漏れなく、ダブりなく、最適な断捨離」——これが私たちのキーワードでした。

デジタル化する価値のある業務と、そうでない業務を峻別する。この作業を省略して先にシステムを入れると、非効率な業務をそのまま加速させることになります。まずここに時間をかけたことが、後の定着につながったと確信しています。

 

第2段階:営業部門からSalesforceを入れた

業務整理が終わってから、初めてSalesforceのCRM(顧客関係管理)・SFA(営業支援)を営業部門に導入しました。全社一斉ではなく、まず一部門から。これが重要です。

具体的にやったことの一つが、SalesforceとEvernoteの連携です。顧客情報と関連する図面・仕様書などを紐づけ、担当者がいつでも正確な情報にアクセスできるようにしました。

もう一つが、報告書のゼロ化です。それまで営業担当者が毎週・毎月かけていた報告書の作成時間を、完全になくしました。Salesforceへの入力データから自動的に報告書が生成され、上長に配信される仕組みを作ったのです。担当者の反応は正直、最初は半信半疑でした。それが「本当に楽になった」に変わったとき、定着が加速しました。

 

第3段階:デジタルマーケティングと連携させた

CRM・SFAで顧客情報の基盤が整ってきたところで、私たちは営業活動の「見えない部分」にメスを入れました。

インサイドセールス(電話やオンラインを活用した内勤型営業)、SNS発信、MEO(Googleマップの検索最適化)、そして専門性の高いコンテンツ記事の制作——これらをデジタルマーケティングとして組み合わせました。クラウドワーカーの方々にも多く参加していただき、地理的な制約なく必要なスキルを確保できる体制を作りました。

「超成長期のセリタ建設を支えたのはクラウドワーカーさんの活躍」と、私は本気でそう思っています。地盤改良の専門記事を書いてくれる方、インサイドセールスを担ってくれる方——固定の人件費を抑えながら、必要な能力を必要なだけ活用できる。これも立派なDXです。

 

第4段階:社内からステークホルダー全体へ

今、私たちが目指しているのは、社内のデジタル化を超えた世界です。顧客・協力会社・地域社会も含めたステークホルダー全体が参加するDXの世界観——それが私たちの「戦略ビジョン2050」の根幹にあります。

 

Salesforceが建設業にもたらすもの

Salesforceを使ってみて、私が一番実感したのは「情報の民主化」という感覚です。

建設業では一つの案件が長期にわたります。問い合わせから調査・見積もり・入札・施工・アフターフォローまで、複数の部門と担当者が関わり続ける。これまでその情報は担当者それぞれの頭とノートの中にありました。「あの案件の経緯は◯◯さんしか知らない」——これが属人化の実態です。

Salesforceに情報が集まることで、誰でも必要なデータにアクセスできるようになります。私自身、ダッシュボードを開けば全案件の進捗と受注見込みがリアルタイムで把握できます。営業担当者も、過去の工事データを工事名一つで瞬時に引き出せる。提案の精度が上がり、判断のスピードが上がりました。

スマートフォンからもアクセスできるので、現場監督が現地から進捗を入力・共有することも可能です。「現場の情報が事務所に届くまでのタイムラグ」——これが建設業の慢性的な非効率でしたが、それが大きく改善されました。

 

同じ悩みを持つ経営者へ、伝えたいこと

10年以上DXを推進してきた経験から、中小建設業の経営者に伝えたいことが4つあります。

システムより先に業務を整理する

「何のために入れるのか」が曖昧なまま導入すると、必ず失敗します。まず自社の業務フローを一枚の紙に書き出してください。どこに非効率があるか、何を変えたいのか——それが明確になって初めて、ツール選びの話ができます。

 

スモールスタートを恐れない

私たちも営業部門の一業務から始めました。全社一斉導入は抵抗が大きく、失敗しやすい。小さく始めて、効果を見せて、仲間を増やしながら広げる。このサイクルが定着への近道です。

 

ツールの作法に自分たちを合わせる

これが私の最大の学びです。自社のやり方を変えずにシステムに押し込もうとすると、使いにくいカスタマイズだらけになります。Salesforceの設計思想には、世界中の営業・顧客管理のベストプラクティスが詰まっています。それに乗ることが、業務改善の近道でもあるのです。

 

社長が本気でやる

これが全ての前提です。「DXは社長の覚悟が最も重要」——私が各地で講演するときに必ず言うことです。現場任せ・担当者任せでは絶対に定着しません。経営者自身が使い、率先して変化を引っ張る。それがなければ、どんなシステムも宝の持ち腐れになります。

 

私たちが目指す「建設業のコードソサイエティー」

私には、2050年に向けた一つの夢があります。

「建設業のコードソサイエティー」——デジタル技術で和音のように調和の取れた建設業界をつくる、という構想です。

目指しているのは二つのことです。一つは、私たちが持つ地盤改良の専門技術をデジタルと掛け合わせ、これまで以上の価値を社会に提供すること。もう一つは、建設業界全体の情報格差を解消し、地方で働く技術者が情報・スキル・キャリアの面で都市部と同じ機会を持てる環境をつくることです。

建設業で、地方で、楽しく働く人の和を繋げる——それがセリタ建設のミッションだと、私は思っています。

Salesforceはその手段の一つに過ぎません。でも、確かに会社を変えてくれた道具でした。

 

最後に

DXは魔法ではありません。入れれば変わるものでも、すぐに結果が出るものでもない。

ただ、正しく使えば確実に経営が変わります。私たちがその証拠です。

まず、自社の業務フローを一枚の紙に書き出してみてください。そこに見えてくる「非効率の種」が、あなたの会社のDXの出発点です。


株式会社セリタ建設 
代表取締役 芹田 章博