鋼管杭工法とは?特徴や種類、メリット・デメリットを解説

2024年01月25日 地盤改良

地盤改良は、軟弱地盤の強度を高め、天災や地震などが起きた際に構造物倒壊を防ぐのに欠かせません。なかでも鋼管杭工法は、多くの都市部や地盤の弱い場所での新築・建替の際に注目される施工方法となっています。その高い耐久性、迅速な施工期間などから、近年、多くの現場で採用されている一方で、コストや騒音、さらには特定の土地での施工制約といったデメリットも存在するため、本記事を通して理解を深めることが可能です。

・鋼管杭工法の特徴
・他の工法との違い
・鋼管杭工法のメリット、デメリット

この記事では、鋼管杭工法の特徴やメリット・デメリット、他の工法との違いについてわかりやすく解説します。

鋼管杭工法の特徴

鋼管杭工法(読み:こうかんぐいこうほう)は、建築や土木工事における基礎工法として、よく用いられる地盤改良工法のひとつです。他のポピュラーな工法には、表層改良工法(浅層混合処理工法)や柱状改良工法(深層混合処理工法)があります。

そもそも、杭工法は、既成杭と場所打ち杭に分けられます(表2参照)。鋼管杭は既成杭に分類され、鋼管杭・既成コンクリート杭・鋼管ソイルセメント杭の3分類が既成杭に含まれます。

鋼管杭工法は、比較的軟弱地盤の深い土地に向いており、地中に鋼製の杭を垂直に打ち込むことでオフィスビルやマンションなどの重量構造物を支えます。特に、重要な構造物や特定の地盤条件下での施工が求められる場面での採用が増えてきました。この工法の特徴を理解し、最適な施工方法か判断しましょう。

鋼管杭の施工方法は、鋼管杭(補強材)を鋼管回転圧入工法により地山へ挿入します。そのほかにも、H鋼杭において、打撃工法、埋め込み工法などを用いてH鋼杭を地山へ挿入する方法もあります。(表1参照)

その他にも鋼管杭の特徴として曲げモーメントに対する抵抗力が非常に大きく、十分な水平抵抗力を期待できます。加えて、長尺基礎の施工時にも、溶接により継ぎ足し(継杭)することで対応可能です。そのため起伏の激しい支持地盤の現場にも長さを容易に変更できるため臨機応変に現場対応が可能です。

上述の通り、杭工法の分類をまとめたものを下記に示します。工法による分類と材質や形状による分類の2つに分けることができ、表1で示すのが杭の工法による分類で、表2で示すのが杭の材質と形状による分類です。

表1 杭の工法による分類

表2 杭の材質と形状による分類

鋼管杭工法の耐用年数

鋼管杭工法は、他の基礎工法と比べて耐用年数が長いことが特徴です。これは、使用される鋼の強度や耐腐食性の高さに起因します。ただし、鋼の種類や施工環境などのさまざまな条件により、実際の耐用年数は変動します。

鋼管杭は、適切に施工されていれば、一般的には、最低50年の耐用年数を持つとされています。この50年とは、鋼管杭が1mm錆びるのにかかる年数であり、1mm錆びても耐力的に問題がないとされています。

各工法の耐用年数比較

鋼管杭工法には標準管径の他に小口径のタイプも存在します。ここでは、鋼管杭工法の種類別に耐用年数を解説します。

工法名

耐用年数

鋼管杭工法

50〜100年

小口径鋼管杭工法

100年

 

上記表からわかるように、どちらの工法も50年以上の耐用年数を有しています。ただし、その寿命は地盤の状態や使用される材料、施工方法によって異なることがあるため、詳細は施工業者に相談するようにしましょう。

鋼管杭工法の費用

鋼管杭工法の施工に関する費用は、1坪あたり5〜7万円が目安です。使用する鋼の種類や杭の長さ、打設する本数などによって異なります。ここで示した金額は住宅用の小口径鋼管杭の施工にかかる地盤改良工費であり、工事で使われる標準型の鋼管杭工法とは値段が異なるので留意してください。また、昨今では鋼の価格が高く、初期投資額は他の工法と比べて高めとなりがちです。しかし、その耐久性や長い耐用年数を考慮すると、長期的な視点での本工法を選ぶコストパフォーマンスは高いといえます。

鋼管杭工法の地盤条件

費用と耐力に直結する鋼管杭の長さは、鋼管杭の長さは先端の支持基盤で決定します。

・地盤の支持層が2.0m以上続いていること
・先端の支持基盤が15以上のN値を示す
これらが鋼管杭工法を用いる条件です。

支持地盤…建物を支えることができる強固な地盤のこと。
N値…地盤の強度を示す基準。高いほど強固な地盤である。

一般的な戸建て住宅の場合、N値5以上であれば建設が可能といわれています。鋼管杭工法を用いるのに必要なN値が15という数値の高さはおわかりいただけると思います。

 

小口径鋼管杭

小口径鋼管杭とは、削孔径(φ)が300mm以下の場所打ち杭や埋込み杭のことです。施工方法は、地山を削孔して鋼管を建て込み、グラウト材としてセメントミルク等を注入して杭を築造します。鋼管とグラウト材が一体化されることで大きな鉛直支持力及び水平支持力を得ることができます。削孔方式にロータリーパーカッションによる二重管工法を採用しているメーカーも多く、削孔水による地山崩壊リスクや中間層に堆積している転石・玉石などの影響も受けずに効率よく施工できることが特徴です。

 

小口径鋼管杭は、その名の通り細い径の鋼管を使用した工法で、軟弱地盤が8mを超える際に用いられます。

この工法は、都市部や狭小地での施工に適しており、大型の機械を使わずに打設が可能なため都市部の狭小地や、既存の建物の隣での施工に非常に適しています。軽量で取り扱いやすく、迅速な施工が可能なのも特徴の一つ。また、騒音や振動が少ないため、住宅地など騒音に敏感な場所での使用が推奨されます。ほかにも地震が起きた際、液状化の影響を受けにくいというメリットがあります。さらに、後述の既成コンクリート杭などと比較すると費用が安い傾向があります。

鋼管杭工法のメリット

鋼管杭工法には他の杭工法と比べて次のようなメリットがあります。

・六価クロム発生の心配がない

・短期間で工事が完了する

・地盤の強度が高い

・柱状改良工法より小型での重機での施工が可能

・重量のある構造物でもしっかり支える

・土地の資産価値が低下しにくい

鋼管杭工法は、さまざまな土木・建設現場での基礎工事において多く採用される工法の一つです。特に大きな下記3つのメリットについて詳しく解説します。

・六価クロム発生の心配がない

・短期間で工事が完了する

・地盤の強度が高い

六価クロム発生の心配がない

地盤改良工事で心配されるのが六価クロムの発生です。

六価クロムとは、発がん性物質で、土壌汚染対策法で定められた特定有害物質のことです。しかし、鋼管杭工法では、この六価クロムの発生を引き起こす材料や工程が含まれていないため、そのような環境リスクを心配する必要がありません。これは、環境に配慮する現代の建設現場において大きなメリットといえます。鋼管杭工法は、六価クロムの排出がないため、環境に配慮したプロジェクトを進める上で、非常に有効です。

短期間で工事が完了する

鋼管杭工法のもう一つの大きなメリットは、短期間で工事が完了する点です。

特に都市部など、短い工期での完了が求められる場面では、このメリットが大きく役立ちます。建設プロジェクトにおいて、時間は費用とも関係し、非常に重要な要素です。鋼管杭工法は、その効率の良さから多くの現場で選ばれています。

盤の強度が高い

鋼管杭工法は地盤の強度を大きく高めます。

鋼管が地盤内に打ち込まれることで、その部分の土壌が固定され、高い耐荷重性を持つ基礎を形成することができます。そのため、オフィスビルやマンションといった3階建て以上の建物や、大きな建築物や重い構造物の建設も安心して行うことが可能となります。地盤が強いことで、建築物の長期的な安定性や耐久性も高まります。安心して使用できるのは、所有者や利用者にとっても大きなメリットといえるでしょう。

鋼管杭工法のデメリット

メリットの多い鋼管杭工法ですが、一方で、デメリットもいくつか存在します。主なデメリットは次のとおりです。

・費用が高くなりやすい

・施工時の騒音や振動が発生しやすい

・支持層がない土地では施工できない

事前にデメリットを理解しておくことで、最適な工法の選定やトラブルを未然に防ぐことができます。それぞれ具体的に解説していきます。

費用が高くなりやすい

鋼管杭工法は、材料費や施工に必要な機械・設備のコストが高い傾向にあります。

特に高品質な鋼材を使用する場合や、特別な施工技術が必要な場面では、コストがさらに増加する可能性があります。費用については、あくまで目安ですが深度5〜6mの施工で110〜140万円ほどかかります。予算の制約がある場合、他の工法との比較検討が必要となるでしょう。しかし、前述したように耐用年数は非常に長いため、コストパフォーマンスは良いといえます。

施工時の騒音や振動が発生しやすい

鋼管杭の打設時には、大きな騒音や振動が発生します。

特に都市部や住宅地の近くでの施工では、周囲の住民や施設への影響を考慮する必要があります。そのため、事前に施工業者から騒音対策を教えてもらったり、周辺住民への説明・配慮をしましょう。施工を開始してからクレームを受けないよう、前もって近隣の方には理解してもらう必要があります。

支持層がない土地では施工できない

鋼管杭工法は、適切な支持層まで杭を打ち込むことで、建物の安定性を確保します。

適切な支持層が見当たらなかったり、非常に深い位置に支持層がある場合は、この工法は施工できません。支持層がない土地の場合、表層改良工法や柱状改良工法といった他の地盤改良工法を検討してみましょう。

鋼管杭工法と他の工法の違い

続いて、鋼管杭工法と他の地盤改良工法の違いについて比較していきます。それぞれの違いを知ることで、より知識を深め最適な工法の選定に役立ててください。

鋼管ソイルセメント杭工法

鋼管ソイルセメント工法とは、地盤にソイルセメントの柱を造り、その中にリブ付きの鋼管を挿入する工法です。

この工法は、高い支持力を有しているため、杭本数を少なくできます。また、建設発生土の量も少ないため環境に優しく、孔壁の崩壊リスク・周辺地盤への影響が低い工法といえます。鋼管杭工法よりも安く施工できる一方で、撤去費用は非常に高額であるというデメリットもあります。

既製杭工法

既製杭には、鋼管・H形鋼材・鉄筋(RC)などの規制食いの種類があります。鋼管杭もこの分類に当てはまります。本工法では、工場で予め製造された鋼管・H形鋼材・コンクリート杭などを現場に運び、打設する方法です。既製の杭を使用するため、施工の際に杭の品質のばらつきが少なく、一定の品質を確保できるのが大きな特徴です。

木杭工法

木杭の歴史は古く、1900年代から鋼杭が使用されるようになるまでは木杭が一般的でした。木杭は、現在でも利用されている建設物はありますが、新設工事においては鋼杭が一般的です。

鋼管杭工法と比較すると、コストは低いものの、耐久性や強度は大きく劣ります。また、施工可能な地盤も限られており、特定の条件下でしか施工することができません。特に湿度の変動が大きい場所や水分にさらされる場所では、腐食のリスクが高まります。

 

地盤改良後の鋼管杭の撤去

地盤改良を行ったものの、その後更地に戻す必要が生じることがあります。

その場合は鋼管杭を撤去することになります。地面を掘り、地中に埋めたときと逆の手順で鋼管を垂直に引き抜き、搬出します。一度施工してしまうともとに戻すことが難しい柱状改良工法と比べると、鋼管杭工法は原状回復しやすいといえます。しかし、鋼管杭の撤去には多額の費用がかかります。無駄な出費をおさえるためにも、施工前によく検討しておきましょう。

まとめ:鋼管杭工法と他工法の違いを理解しよう

地盤改良の鋼管杭工法について解説しました。

鋼管杭工法は地盤の強度を高める効果が大きく、重量のある構造物でも戸建て住宅でも用いられる非常にポピュラーな工法です。

鋼管杭工法のメリットは次のとおりです。

・柱状改良工法より小型での重機での施工が可能

・短期間で工事が完了する

・重量のある構造物でもしっかり支える

・地盤の強度が高い

・土地の資産価値が低下しにくい

・六価クロム発生の心配がない

一方で、デメリットもいくつかあります。

・費用が高くなりやすい

・施工時の騒音や振動が発生しやすい

・支持層がない土地では施工できない

鋼管杭工法の特徴やメリット・デメリット、他工法との違いを理解した上で、工法の選定を行うようにしましょう。

建築や土木工事において、基礎工法の選定は重要なポイントです。特に、地盤の強度が求められる場所では、鋼管杭工法の採用が考えられます。「安かろう、悪かろう」という言葉がありますが、鋼管杭工法においては「高品質、高コスト」ともいえます。

鋼管杭工法に関するよくある質問

最後に鋼管杭工法についてよくある質問をまとめました。

Q1: 鋼管杭工法の主なメリットは?

鋼管杭工法の主なメリットとしては次のとおりです。

・六価クロム発生の心配がない
・短期間で工事が完了する
・地盤の強度が高い

デメリットとしては、費用が高い、振動や騒音が大きいといったものが挙げられます。

Q2: 鋼管杭工法の種類は?

鋼管杭の種類は、標準口径の他に、小口径タイプがあります。施工する地盤の状況や施工範囲、費用、強度などをもとに選定しましょう。

Q3: 地盤改良後、鋼管杭の撤去は容易ですか?

鋼管杭の撤去は容易ではありません。

撤去費用は非常に高額となる傾向のため、施工前によく検討しておく必要があります。